水瀬家では、いつもと違う食卓を迎えていた。 あらあらと、ちょっと困った様に微笑んでいる家長の水瀬秋子。 好奇心いっぱいな視線を注いでいる、みつあみ少女な長女の名雪。 緊張しながらも、どこか決意に満ちている居候の祐一。 そして、俯いているお客さんのあゆ。 人見知りしながら、祐一の服を握っている真琴。 さらに、きりっとしながらも、やっぱり緊張している美汐。 今日、祐一は三人の女性の心を救うために、かなり無茶な要求をしようとしていた。 それは、あゆ、真琴、美汐を水瀬家の居候にしようというものだった。 あゆは、唯一の肉親である母親が亡くなったことにより、一人になってしまっていた。 親戚は一応いるのだが、誰もが引き取ることに難色を示していた。 そんな無理に引き取られた状態で、彼女が幸せを掴むことは難しかった。 真琴は、言うまでもなく身寄りが無い。 元は妖狐だったので戸籍すらなく、このままだと生きていくことすら困難だった。 美汐には、ちゃんと両親がいる。 しかし、七年後の祐一と同じように、その両親は転勤していた。 美汐は、かつての妖狐との思い出が残るこの地を去るつもりは無い。 そのため、一人で生活していたのだ。 家政婦を雇ってはいるが、幼い子供が生活する環境として見れば、万全には程遠い。 こんな幼い時からそのような生活をしていては、本人の成長にとって恐らくマイナスになるだろう。 この三人をそのままにしておけば、きっと幸せにはなれない。 祐一はそう考えて、秋子に無理難題を頼もうとしていた。 「秋子さん、大事なお願いがあります」 「祐一さん。 祐一さんの顔を見ていれば、真剣な相談であることは分かります。 ですから、まずは食事にしましょう。 みなさん、晩御飯はまだですよね?」 「あ、はい」 「うぐぅ………まだです」 「あぅ………まだ」 「………まだです」 緊張していた四人は、そろってイエスと答える。 「じゃあ、せっかくですからご馳走しますよ。 お話は、その後にしましょう」 「分かりました」 「みなさんの好きな食べ物はなんですか?」 「たい焼き!!」 「肉まん!!」 「特にありませんが、強いて言うなら焼き魚でしょうか?」 「分かりました。 では、楽しみにしてくださいね」 少しの会話だけで先ほどまであった緊張感は、ほとんどなくなっていた。 こっちの緊張をほぐす方法としては、最高の選択肢を差し出してくれる。 やっぱり、この人には敵いそうもないな、と祐一は思った。 どんなに知識や経験や力を手に入れても、この人にだけは一生頭が上がらないんじゃないか? そんな疑問が浮かんでくる。 今の祐一は、人としての限界を超越している知識と力をもっていた。 にも関わらず、秋子の前では、まるで普通の子供になってしまう。 相沢祐一、現在小学四年生。 本当は、高校ニ年生。 ずっと前からずっと思っていたことだったが、今回はそれを痛感した。 つまり、このお方には敵いません、と。 「じゃあ、名雪。 お手伝い頼めるかしら?」 「うん、もちろんだよ、お母さん」 二人は、キッチンの方へぱたぱたと歩いていく。 まだ小学生にも関わらず、名雪はある程度の家事をこなすことが出来た。 さすがに高度な料理は無理だが、それでも祐一を感心させるには十分だった。 「名雪、もうそんなことまで出来るんだ。 凄いじゃないか。 名雪は良いお嫁さんになれそうだな」 「えっ、えっ、やだ、恥ずかしいよ、祐一」 いきなり祐一に誉められて、名雪は紅くなって慌てていた。 それでも、好意をもっている異性にそう言われれば、悪い気はしない。 というか、思いっきり嬉しくて、幸せいっぱいの笑顔を見せている。 「うぐぅ、ボクもお手伝いするもんっ!!」 「あぅ、真琴だって負けないんだから!!」 「おばさんくさいわけではなく、物腰が上品なところをお見せしましょう」 あゆ、真琴、美汐が唐突に席を立つと、キッチンへわれ先に向かいだした。 突然の行動に、祐一は目を丸くして驚く。 祐一の知る限り、彼女たち三人は、人見知りをするほうだった。 それなのに、ほとんど会ったことの無い水瀬親子を手伝うとは、想像できるはずもなかった。 「な………なにやってんだ、お前ら?」 声を掛けられた三人は、じろっと祐一を一瞥すると、気にせずキッチンで作業を続ける。 その態度に、祐一は、ますます困惑の度合いを深める。 鈍感キングの名を欲しいままにしている少年は、少女達の乙女心に気づくはずも無かった。 名雪に言った『お嫁さん』という単語が、少女達に火をつけたことを理解していない。 「あらあら。 祐一さんも大変ですね」 「へ? なんで俺が大変なんですか?」 きょとんとした表情をする祐一。 そんな甥を、楽しそうに見つめる秋子。 キッチンでは、四人の乙女による、鍔迫り合いが繰り広げられていた。 「きっと、祐一さんはこの光景をずっと見つづけることになりますよ」 そう呟いた秋子は、本当に嬉しそうにしていた。 そして祐一は、秋子の言葉の意味が分からず、考え込んでいた。 ありふれた優しさ 第四話 たい焼きとうぐぅな少女 Written By Parl
少女達の鍔迫り合いが始まる数日前、祐一は、商店街にきていた。 目的は、ずばり人探し。 「さて…………たい焼き泥棒のうぐぅを見つけないとな」 周囲を見渡しても、一面の雪景色と人の群れ。 この中から、一人だけを探すのは、なかなか骨の折れる作業だった。 「あゆあゆは、まだ、たい焼き大好き娘になってないからなぁ。 こうやって突っ立っていれば、向こうからタックルしてくるかもと思ったが、会ったこと無いことになってるし………」 正直言って、手詰まりな状態だった。 仕方なく、もっとも原始的だが確実な方法―――商店街をしらみつぶしに探すことにした。 ドカッ 「うお!?」 「うぐぅ!?」 祐一が歩き出そうとした瞬間、いきなり背後から誰かがぶつかってきた。 その特徴的な口癖から、祐一は、すぐに誰がぶつかってきたか気づく。 「………まさか、本当にタックルしてくるとはな。 たい焼きうぐぅ、侮りがたし!!」 祐一は、呆れと賞賛を含んだ表情―――比率は6:4といったところか―――で、背後を振り返った。 そこには、予想通り涙目で鼻を抑えている月宮あゆがいた。 ただ、その表情は七年後の世界で祐一が見慣れている明るいものではなく、今にも壊れそうなくらい暗い表情だった。 祐一の心に、痛みが走る。 今のあゆが悲しみに囚われるのは、ある意味しかたのないことだった。 なぜなら、最愛の母親との別れを経験した直後なのだから。 それでも、祐一は悲しさを感じてしまう。 そんな内面を一切出さないように気をつけながら、祐一はあゆに話し掛けた。 「大丈夫か?」 「……うぐぅ」 「うぐぅ? うぐぅってどんな意味があるんだ?」 それとなく、疑問に思っていた。 いつもあゆが口癖で使う言葉、うぐぅ。 それは、あゆ本人が言うとおり、ただの口癖なのかもしれない。 でも、もしかしたら、高速圧縮言語や数千光年離れた宇宙の未知なる文明が残した言語なのかもしれない。 祐一にとって、うぐぅは巨大な謎のひとつだった。 「うぐぅ………大丈夫………」 「は、初めて知った……………うぐぅって大丈夫って意味だったんだ」 「うぐぅ、ち、ちがうもん……」 積年の疑問が解けたと思って感動していた祐一だったが、すぐにあゆに否定されてしまった。 「なんだ。 それは、とっても残念だ」 がっくりと肩を落とす祐一。 本気で残念がっている。 彼の凄い、あるいは迷惑なところは、ここにある。 下らないことに、本気で情熱を傾けてしまうことである。 真琴やあゆに嘘を教えてからかったり、美汐におばさんくさいと言うのもそれのもたらすものだった。 「で、名前はなんて言うんだ?」 「……………あゆ」 「あゆか。 苗字は?」 「………あゆ……」 「あゆあゆか………変わってるな」 「うぐぅ、あゆあゆじゃないもんっ」 「なに? じゃあ、うぐぅか?」 「………ちがうよ。 ……月宮あゆだよ」 「なるほど。 月宮うぐぅか」 「うぐぅ…………」 あゆは、かなり泣きそうになっていた。 周囲から無遠慮な視線を注いでいる一般庶民の皆様方の声無き非難の声が痛かった。 さすがにからかいすぎたと、祐一は慌てる。 「分かった、分かった。 月宮あゆだな。 分かったから泣かないでくれ」 「………うん」 「ちなみに俺の名前は相沢祐一」 「祐一君?」 「おう、そうだ」 なんとなく偉そうな祐一。 それでも違和感が無いのは、少年の持つ雰囲気がそうさせているのだろう。 「それで、なんでそんなに、悲しそうな顔してぶつかってきたんだ?」 「………………」 「そんな不思議そうな顔しなくても、誰にだってすぐ分かるぞ? あんな表情を見ればな。 こんな俺だけど、話くらいは聞いてやるから、話してみてくれないか?」 あゆを安心させるためと警戒心を解くために、祐一は優しい微笑を浮かべる。 後に、最終決戦兵器『愛、笑顔そして』と言われるそれは、あゆにもしっかりと効いていた。 やがて、あゆはぽつりぽつりと話し出す。 「お母さん………遠くへ行っちゃった。 もう、二度と会えない場所へ行っちゃったの。 ぐすっ…………ボク、ひとりになっちゃった」 悲しげに紡ぐ言葉は、幼い子供にとって最大の庇護者の喪失を意味していた。 最愛の肉親との別離は、目の前にいる小さな女の子に、どれだけの苦痛と絶望を与えているだろうか? そして、それを癒すべきあゆの周囲に居る大人達は、利己にだけ走り、子供の心を無視している。 祐一は、激しい憤りを感じずにはいられない。 分かっていたことだけど、許すことはできない。 どうして黙っていられよう? どうして放っておいていられよう? 救うと誓ったのは、己のエゴかもしれないけど、それでも笑顔を守ることができるなら、それでもいい。 この優しい天使――――探し続けた最後の願いを、人のために捧げることのできる悲しい強さをもった少女―――の心を守りたいと願ったのだから。 「分かった。 じゃあ、あゆ、これからは俺が一緒に居てやるよ。 そうすれば、一人じゃないだろう? あゆひとりじゃないだろう?」 「……でも、いいの?」 「ああ、いいぞ。 今度、俺の友達を紹介してやるよ。 みんな良い奴ばかりだから、あゆもすぐに友達がいっぱいになるぞ」 「で、でも、でも、ボクなんかと友達になってくれるの?」 「ばーか。 だからあゆは、あゆあゆなんだ。 そんなの当たり前じゃないか。 あゆを好きになれない奴なんていないさ。 少なくとも、俺の友達にはな」 「うぐぅ、本当?」 「ああ、本当だ。 今度、紹介してやるからな」 「うん」 ようやく、あゆは笑顔を見せた。 祐一が、守りたかった笑顔のひとつ。 ――たとえ俺が今しか側に居られなくても、あいつらが居れば、あゆの笑顔は守られるだろう。 「よし、さっそく友達になったお祝いをしよう」 「お祝い?」 「そう。 じゃあ、行こうか」 祐一は、やや困惑しているあゆの手を握って、強引に引っ張っていった。 引っ張られているあゆは、うぐぅと言ったきり、俯いてしまっている。 前を見ている祐一が知る由も無いが、このときのあゆは、顔を真っ赤にしていた。 「ほら、ついたぞ」 「ここは、どこ?」 「たい焼き屋の前だ」 あゆが顔をあげると、そこにはたい焼き屋の屋台があった。 香ばしい匂いが、二人の周囲まで漂ってきている。 「すんませ〜ん。 たい焼きを四つください」 「あいよ〜」 たい焼き屋の親父は、微笑ましい二人の小さなお客さんに、サービスをしてあげようと思った。 手早くたい焼きを焼き上げると、六つを紙袋に放り込んで、祐一に渡した。 「あれ? 二個多いよ」 「気にすんな。 俺からのサービスだ」 「お、サンキュー」 「良いって良いって。 これからも、贔屓にしてくれよ」 「もちろん」 祐一とたい焼き屋の親父は、互いに笑いあっていた。 一人だけ忘れ去られた感のあるあゆ。 ちょっと寂しげにしている。 「ほらよ」 祐一は紙袋から焼きたてのたい焼きを取り出すと、あゆに渡した。 あゆはたい焼きを受け取ると、それと祐一を見比べる。 どうして良いのか、分からないようだった。 それを見た祐一は、笑いながら自分の分を紙袋から取り出して、熱々のたい焼きを食べ始めた。 「うん、やっぱりあの親父のたい焼きが一番だな。 ほら、あゆもボケッとしてないで食べろよ。 せっかくの焼きたてのたい焼きが冷めたら、もったいないぞ」 「うんっ」 あゆは、元気良く頷くとたい焼きを頬張った。 たっぷりの餡がとても美味しかった。 「美味しい…………」 「だろ? このたい焼きは、俺のとっておきだからな。 感謝するんだぞ、あゆあゆ」 「うぐぅ………あゆあゆじゃないもん」 たい焼きを食べながら、あゆは祐一に抗議した。 だが、自分のために、いろいろとしてくれる祐一に、友情以上のものを感じ始めていた。 母親を失ってから、初めて安らいだような気持ちになっていた。 ――祐一君、ありがとう………。 隣にいる少年を盗み見てみる。 あどけなさを残しているが、どこか力強さを感じさせる。 そして、それ以上に優しさと温かさを感じさせる横顔。 知らず知らずのうちに、そこに引き込まれていく。 あゆはいつしか、たい焼きを食べるのも忘れて、祐一の横顔に見入っていた。 「ん? あゆ、どうしたんだ?」 「え?」 あゆの視線に、祐一が気づいたようだ。 祐一の様子から、自分が初めてこの少年をじっと見つめていたことに気づいて、あゆは焦ってしまった。 「じっと俺の顔を見てたみたいだけど、どうかしたのか? ま、まさか…………」 ぎくっとするあゆ。 祐一と出会ってから少しの時間しか経過していないが、その短い時間に強く惹かれているのを感じていた。 あゆ本人も後になって理解する初恋だった。 「俺の分のたい焼きまで奪う気じゃないだろうな?」 ズルッ、ドテッ!! 祐一の予想外のセリフに、あゆは盛大に転んだ。 新雪とはいえ、それなりに痛かった。 「うぐぅ……………痛いよ」 赤くなった鼻の頭を押さえながら、あゆが呟く。 「なにやってんだ、あゆあゆ? もしかして、転ぶのが趣味とか?」 「そんなわけないよっ!!」 「そうか。 じゃあ、なんで転んでるんだ?」 「祐一君が、変なことを言うからだよっ!」 「変なこと? 俺、そんなこと言ったか?」 「言ったよっ! なんでボクが、祐一君のたい焼きを奪わないといけないんだよっ」 「なに、違ったのか? 俺はてっきり、たい焼きうぐぅは食い逃げしてまでもたい焼きを求めるとばかり思っていたからなぁ」 「そんなことしないよっ!!」 「いや、したんだけどなぁ…………」 「うぐっ…………ボク、食い逃げなんかしないもん…………」 祐一が語っているのは七年後の世界での話なのだが、もちろん今のあゆには分かるはずも無い。 当然ながら、たい焼きを食い逃げなんかもしていない。 好意をもった異性に酷いことを言われ、あゆは悔しさと悲しさで涙が出てきた。 「ま、まて、あゆ! 泣くな、泣くんじゃない!! 俺が悪かった」 あゆの涙を見た祐一は、非常に慌てた。 つい七年後の世界と同じ感覚であゆをからかってしまったが、今のあゆはまだまだ心の傷が癒えていない。 祐一は打ち解けてこれた安心感からか、ついそのことを失念してしまっていた。 なんとかあゆに泣き止んでもらおうとするが、潤んだ瞳はなかなか戻らない。 「………うぐぅ」 あゆは必死に涙を堪えていたが、滲み出るように雫が零れ落ちていく。 それを見た祐一は、軽く溜息を吐くと、心構えを変えた。 意識を切り替えたと言っても良いだろう。 ゆっくりとあゆの近くまで歩み寄ると、あゆの頭に手をおき、ゆっくりと撫で始めた。 触れられた瞬間、あゆはびっくりしたようだが、やがて時間の経過と共に体の力が抜けていく。 祐一の手のひらの温度が、あゆの心に染み込んでいく。 ――祐一君の手のひら、あったかいよ…………。 ――それに、すごく落ち着いてくる。 しばらく頭を撫で続けていた祐一は、次にどうしようかと悩んでいた。 なんとか泣き止んでもらえたのは良いのだが、今度はいつ止めようか判断が難しい。 いつまでもこうしているわけにはいかない。 「なあ、あゆ」 「なに、祐一君」 「ちょっと辛い思いをさせるかもしれないが、聞きたいことがあるんだ」 言外に聞いても良いかと質問を混ぜる祐一。 あゆの回答を待っている状態だ。 「祐一君、それって大事な話なんだよね?」 「ああ、そうだ。 少なくとも俺はそう思っている」 「なら、話して」 最終的には、祐一に対する信頼感が勝った。 出会ってから数時間ほどしか経過していないが、あゆは相沢祐一という少年を心から信頼していた。 「さっきのあゆの話だと、お母さんが居なくなって一人ぼっちって言ってたよな。 それって、お父さんも居ないってことだと思ったんだが、間違ってるか?」 「ううん、祐一君の言うとおりだよ」 「そっか。 それとこれからあゆは、どうなるんだ?」 「どうなるって、どういうこと?」 「あゆの年齢で一人暮らしは無理だろうから、今後の生活はどうなるのかなと思ってな。 親戚の家に行くのか、知人の家にお世話になるとか、いろいろあるからちょっと知りたかったんだ」 祐一の脳裏には、既に腹案があった。 それでもあゆに尋ねたのは、祐一自身があゆの今後を知らなかったからだ。 前回は、それを聞く前に悲劇が発生してしまっていた。 だから、あゆが今後を語った時、祐一が衝撃を受けた。 「それならボクは施設ってとこに行くことになってるみたいだよ」 必死に笑顔を見せようとしているあゆが、祐一には辛かった。 それと同時に、傷心を抱く子供に追い討ちをかけるような仕打ちをする親類縁者が許せなかった。 気づかぬうちに、祐一は拳を強く握り締めていた。 「あゆ、施設なんか行くことは無い」 「え?」 「大丈夫だ。 俺に素晴らしいあてがある」 「で、でも、親戚の叔父さんとかは、施設に行きなさいって…………」 「そんなふざけた野郎の言うことなんか聞く必要は無い!! もし、どうしてもあゆに施設に行けって言うなら、俺が話をつけてやる!!」 怒鳴りながら、祐一はあゆの言葉を遮った。 彼は、心底怒っていた。 不実な大人達を黙らせるためなら、手段を選ぶつもりは無い。 祐一は女神から得た知識を悪用することも辞さないつもりだった。 エゴと言われようと傲慢と言われようと、あゆを救うためなら何も躊躇いはしない。 「そういうわけだから、あゆの今後については俺に任せてくれ」 「う、うん」 そして、その日はそのまま別れた。 後日、祐一はあゆを水瀬家の居候にすることを、秋子にお願いするつもりだった。 だが、祐一にはその前にしておかなければならないことがある。 あゆと同じように、祐一がお節介をしなければならない少女が居る。 沢渡真琴と天野美汐の二人…………。 そして、美坂香里と美坂栞の二人の少女。 Ver.1.00 2002-02-09 公開 |