心理療法の実際について

心理技法と良くなっていく行き方について

 “治療技法について”のページに書いたことと重複もしますが、ここではもう少し具体的に、当相談室に来談された方々の良くなっていく行き方の傾向と絡めて、その心理技法の長所と欠点について説明してみます。全てが含まれるわけではありませんが大まかには三通りくらいに分けることが出来そうです。

1)催眠に入った状態で暗示やイメージトレーニングなどを行うのは催眠療法のなかでも一番シンプルな治療法と言えます。でもこれだけで、例えば緊張や不安やその他の問題行動が良くなって行く方もいます。催眠体験をすることで、それまでかみ合わなっていた心と身体のバランスが取り戻せるからです。

 この方法の良いところは、わりと短期間で済むことです。また自分を見つめたりするようなカウンセリングが苦手だったり、その他の内省的に心の内面に深く立ち入るような心理技法が向いていない方に最適です。

 欠点としてはやはりある程度以上の深さの催眠状態が得られない人の場合に暗示の効果も弱くなり、実感が得にくくなる点です。あとこの方法はどうしても対処療法になりがちです。それでは、そうなりやすい根本のところが変化しないので、また同じような症状が再発してしまう場合があります。

2)来談される方の症状や問題はそれぞれ違っています。けれどもその背後に必ずといっていいほど強い心的疲労を抱えている場合が見られます。心が疲れているのでは良くなるものも良くなりません。

 そのような場合に、まず第一に深く安らげるようにと、心を切り替えて上手に休息時間を持てるように工夫していったり、ときには催眠療法で深く休んでもらったり、またラックス療法で深いリラクゼーション技法を会得してもらったりします。すると例えば「ここ何日かよく眠れました。気持よく目覚めるとその日は症状なども気になりません」などと、かなり安定してきます。

 ただ対処療法的な催眠療法と同じで、深い休息やリラクセーションで一応安定したとしても、そのような疲れやストレス状態に陥りやすい当人の無理のある生き方、その傾向などが変化できずに残っている場合には、また何かのおりに繰り返すことがあります。

★心と身体の健康の基礎は、安らいでいられる時と場所、それと深い睡眠です。またリラクセーションは心身の健康にとっても、より良く行動したり、物事を成し遂げて行くさいにも非常に大切です。

3)カウンセリングやフォーカシング、催眠状態のなかでのイメージ面接などで問題をより深く検討していったり、また自分の内面を見つめ直面していくところから気づきや洞察が生まれます。ときには過去にあった、辛すぎて受け止めきれなかったことを思い出して話すことで心の整理ができることもあります。またありのままの自分を大切にできるようになったり等々、そのようなことを積み重ねながら結果的に悩みの解決をして行く方がいます。

 この自己内省的な取り組み方はより本格的な心理療法といえるでしょう。それによってときには見違えるように生き生き伸び伸びとしてきたり、また人間的により成熟した人格へと変わって行く方もいます。

 ただこの方法は内面を見つめることが苦手な、そういうのが向いていないタイプの人には取り組みにくい心理技法です。また直ぐに問題を解決する方向に行くのではなくて時間がかかる場合もあります。悩みの背景的な事柄に話題が進んだり、時には小さいころのことまでさかのぼって考えたりするわけですからそれだけ時間がかかるわけです。

 自ら取り組めている感じがあれば、少しづつでも整理できている感じや、良くなっている手応えを感じられるのでそれで良いのです。でもクライアント側のペースを無視してそれが進んでいくと、しんどくなって続かなくもなります。また、とにかく苦しいので一刻も早く治りたい解決したいとの気持ちにはそぐわず、カウンセラーとクライアントで食い違いが出てくる場合があります。

 通常はカウンセリングで、カウンセラーがもっと良くわかろとしながら話を聞いていると、そのやり取りの中からカウンセリングの目的について直感的な納得があったり、何か手応えを体感的に感じてくるので、特に説明しなくとも来談された方自身の方から自然にその方向に進んで行かれます。

 その過程は「話して聞いてもらってスッキリ楽になった」というばかりとは限りません。ときには今まで否定し考えまいとしてきた思いや感情に直面して、例えば「こんなことは人間としてあってはならないことでは」とか「こんなことを言うと否定されてしまうのでは」とかの不安や恐れを感じたり、自分を深く見つめて行くうちにかえって自分が分からなくなったりすることもあります。

 また本格的な心理療法になればなるほど、悩みや問題がありながらも、それなりに定まっていた今までの自分の基盤が大きく揺らぐ感じがして、不安定になることもあります。新しい可能性のエネルギーにまだうまく対処できない為、心身共に揺り動かされたりするなど、途中でとてもしんどい局面になるときもあります。大きな変革には大きな揺らぎが伴うことをわかっていて、そのつど対処して行くことができれば大丈夫です。

 ときにフォローが充分でない心理技法や東洋的な心の修行法に取り組んだがためにそうなってしまった人がいます。また日常生活の中で、このような自己変革への大きな揺らぎが、何かのきっかけで起こる場合があります。でも当人も周りも、それがそうだとはほとんど理解できません。そこでその過程は中途半端に終わってしまいがちです。

 心身の不調で来談した方で、そのような変革の過程の途中にあって、かえって混迷を深めて苦労している人がいます。そこで、そのような変化の過程にあったことを説明して了解、納得がいくだけでもかなり安定できます。またその大仕事の後半部に取り組んだり、最後の仕上げをして行かれる方もいます。

 それは本当に大変な道でもあるのですが、カウンセラーとクライアントがよく信頼し合って協力し合うなかで、そのような辛く苦しいところをも歩みながら次第に力を付けて変化、成長していけるものです。

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